さんおおさん

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 僕は“さんおおさん”と呼ばれている、僕の歳は、千歳ぐらい生まれたとき役場がなかったので、よく分かっていない。

 じーちゃんが今、二千歳ぐらいだと、とーちゃんが言ってたから、あと一千年ぐらいこの山でいなくちゃいけない計算になる。

 僕の楽しみは、山に登ってくる人間を驚かすこと、風をビュウーと吹きつけてみたり、木をユッサユッサとゆらして、木の葉を登ってくる人間にドッサと落としてみたり、へんなことして楽しんでいる。

 ふだんは、僕は人間に見えない…なぜって
それは言えない、えらーい神様に約束させられているから、ダメ!

 僕は気に入った人間が来るとついて行く、くせがある。いま一番気に入てる人間の名前は森守とゆう名の大学の先生だ、あだなは「モリモリ」なんでも宇宙に関する難しい勉強をしているらしい、
時々天狗山の一本杉へ来てはなにか空を眺めてブツブツ言っては
「よおーしわかったゾ」
と言って自転車に飛び乗りものすごいスピードで帰ってゆく。

 モリモリが考えているとき、いつも僕の方をみている、ひょっとするとモリモリは僕が見えているのかも…モリモリには二人の孫がいる名前は、「はやて」と「なぎ」、双子だ。

 モリモリのモットーは化石燃料をできるだけ使わないようにすること、だからどこへ行くにも自転車だ!何?化石燃料って言うのは石油や石炭のことだよ。

 モリモリは、よく言う「肉体は使うことで磨かれる。」名言だね!お年のわりには、よく動くし調子の良いときは自転車でウィリーやジャックナイフもしてのける。

今日は三人でやって来た、もうすぐ坂道だ「イチニ・イチ二」三人は、少し中腰になって全身の力をペダルを踏む足やハンドルを持つ手に、うまく配分しながら坂の上まで「イチニ・イチニ」とがんばった。

「よおーし頑張ったな、はやて・なぎ!」

「もう少しだ!」もう少しと言うのはモリモリのよく来る一本杉のことで、その一本杉のてっぺんから僕は三人を見下ろしていた。

 はやては活発な男の子、なぎは思慮深い女の子で小学校五年生、彼らが一本杉へ着いたころ、森のダイバンダ達がざわめき始めた。

 僕はいつものざわめきだろうと放っておいたのがいけなかった。

 ダイバンダはこの森を守る地下の精霊だ、異変があると彼らはザワザワと騒ぎ出しわるさをする、人間の足をひっぱり体を引きずり込む、モリモリが巻き込まれた。

「しまった!エーイ」

 一本杉のてっぺんから僕はモリモリを救うため、一気に地上めがけて頭からダイビングだビューン地上すれすれでブレーキがかかる体を丸め足からスットン!急いで手に持っていた小さな“かなぶりばとう”で、モリモリが倒れている場所に彼をかこむように円を描いて呪文を唱えた。

「だんばいだろえき」

 これでダイバンダが手の届かないエリアが出来上がった。そして、はやてとなぎを円陣の中へ呼び込んだ、はやてとなぎには僕が見えていた。              

「今この円陣の中をパワーアップするから、この中でまってて。」

 ふたりは僕をけげんそうに見ながらも素直にうなずいた、僕は円陣の外へ出ると手に持っていた、小さな“かなぶりばとう”に呪文を唱えた。

「れーなくきおお」ボン!

大きくなった”かなぶりばとう“を両手で体の前へ、二回トントンと地面をたたく、すりあしで円を大きく描くように進む、慎重に…途中で右足を上げ降ろすと同時に左足を上にあげ右足左足と地面に叩きつける…    

スリスリ・トントン「へんばい・へんばい」

スリスリ・トントン「へんばい・へんばい」

何回かくりかえしてもとに戻ってきた。かなぶりばとうを地面に突き刺して円陣のなかに入った、はやてとなぎは目を丸くして僕を見ていた。

二人は声をそろえて
「あなたは誰?」

「ぼくは、さんおおさん、ちょっと待っててモリモリのダイバンダの呪いをとくから。」と言いながら僕は気をためた。

「よけとよいろの エイ!!」

「だいじょうぶかな?じいちゃん」二人は言った、モリモリは深い眠りに入ったように静かにしていた。

「大丈夫だよ!気が付くまで、あと少しかかるから木の葉のふとんを着せておこう。ムムム…はっぱぱどんぱっぱ。」あっという間にモリモリは木の葉のふとんにくるまれた。

「僕はこの山を守る、さんおおさん、モリモリはこの一本杉へよく来るから知っているんだ散歩のときもよくモリモリに付いてテクテク歩いテク。」

「へーそうなんだ!じいちゃんの友達か。」

また二人は声をそろえて言った。

「そうだ!モリモリが気が付くまで森を案内しよう。」

「さんせい!」
 また二人が声をそろえる。

「僕につかまっていろよ!」
はやてとなぎは
僕の両わきに立ってしがみついた。

 “かなぶりばとう”をトントトトンとたたく、ビューンと飛び上がった一本杉の枝が近づいて杉の葉がバァーと散ってまた枝が…枝と葉が重なり合って小さかった空がどんどん大きくなってバサー、とうとう一本杉のてっぺんに上がった。

 僕は“かなぶりばとう”の小さい杖を二人に渡した、はやてとなぎは僕にしがみついたまま杖をもらい不思議そうな顔をした、僕はトントトトンと杖を空中で地面があるようにたたいた。

「さあ!僕と同じにたたいてごらん」

《とんとととん》

「雲のうえに立ってるみたいだ!」とはやて

「ふわふわの雲の上!」となぎ

 二人は声をそろえて「たのしーい」

「はやて、なぎ!さあ行くよ」僕は、ちょっと得意そうな顔をした。

「え!どうやって?」

「呪文だよ!(颯(はやて)って言うんだ」そうすると風が集まりだした。はやてとなぎの背を押して移動しだした。

 右肩を前に出すと左へ、左肩を前に出すと右へ、どんどん面白くなってきた、体を伸ばしたり縮めたり丸くなったり広げたりすることで方向やスピードをコントロールできた。

「ねぇ!さんおおさん…止まる時どうしたらいいの?」

「あ!忘れてた、((なぎ)って言うんだ」

 二人はまたまた合唱するように声がそろう。

「((なぎ))」風は止み、二人のスピードは徐々におちて止まった。

「さんおおさん、不思議に思っていること、聞いていい?」

「ああ、いいよ…」すこしもったいをつけて言った。

「なぜ森のダイバンダは、じいちゃんにいかかったのかな?」

「うーん彼らは…はやて・なぎ森をよーく見てごらんよ、ところどころ森が枯れたりはげたりしているだろ!この山も、向こうの山も、ずーと折り重なる山々も枯れて、所どころ禿げているだろ。」           
「あ!道路や住宅の造成が進んでいる。」

「ひどいだろ、僕のひーじいちゃんからの聞き伝えによると、四十六億年まえに地球ができて彗星の衝突で海ができてオゾンができて原生生物ができて何億年もの時を重ね今の地球が山が森ができたらしーい!」

「さんのうさん、すごーい!うちのじいちゃんみたいだ。」
二人はしきりに関心している

「虫や鳥や動物もダイバンダたちも今の地球の恵みを受け静かに営みを繰り返し森とともに生きてきたんだ、ところがこれだ!ここ何百年かで破壊がはじまった、君たち人間の手によってだ悲しいな!ダイバンダはモリモリならなんとかしてくれると思って体を引き摺りこみ話を聞いてもらおうと思ったんだ。」

 二人の心は悲しみに満ちあふれ始めていた

「どうすれば、いいの…」
と聞こうとしたとき、向こうからギャーギャーバタバタと騒々しく三本足のやた烏がやって来た。

「さんの兄貴!」
やた烏のガラガラ声だ。

「なんだヤッタじゃねぇか!」
いつも騒々しいので、そっけなく言ってやったが今日は、
少し様子がへんだ。

「てーへんだ!兄貴、虫や鳥が人間どもの仕業に怒り狂って、こっちへ向かってきやすぜ!」
ヤッタはバタバタと向きを変え、二人にも言った。

「君たちも早く逃げろ!」バタバタバタ…

 先頭を切って山ほどの蜂がうしろの山を隠すぐらいに飛んできている。

「これはいけない!はやて・なぎ良く聞いてあそこの山と山の間に小さな滝が見えるだろその滝つぼに、逃げるんだ“かなぶりばとう”を早く三回たたくんだ。」

(トトト)強風が吹き僕たちを吹き飛ばした

孫悟空もまっさおだ、ジェットコースターよりすごい!風をきる音も聞こえない、目の前に緑碧(りょくへき)のまんまんと水をたたえる滝つぼが、せまってきた。

“ドッボーン”僕に続いてはやてとなぎも

“ドッボーン”たくさんの空気の泡でまわりがいっぱいになった。

「へーきち・へーきち」僕はかっぱのへーきちを直ぐよんだ。

「へーい・さんの兄貴なんでしゃろ!」へーきちは少々関西なまりがある百年ほど前に、この滝つぼにやって来た、滝つぼの向こうから手と腕だけがまずニューウとのびて三人のいる岩に手を掛けると、今度は腕がシュルシュルと縮まって体のほうがボヨヨーンとやってきた。

「二人にかっぱマスクを…ブクブク」なんだか喋りにくいのだ。

「へい!おまちィ」背中の甲羅のようなところからかっぱマスクを取り出して二人に渡した、はやてとなぎは急いでマスクをした。

「へんな顔!」
二人は声そろえてお互いを見合った、でもすごく快適だ。

「ありがとう、へーきちさん」
へーきちは少し嬉しそうにはにかんだ。

「どうしたんですかい、さんの兄貴!上の世界が最近とくに騒がしゅうおますな。」

「ああ、例の森壊しのことでブンブンたちが人間に警告を出しているんだが、人間が気が付かないんだ。」

「そーでっか、そー言うと百年足らず前から川や海に薬や汚染廃棄物をながして川の生き物が死んだり変形したりして、ワテもいたたまれんなって、ここへ引越ししてきたんですわ、いよいよ住みにくーなって来ましたな」

 二人はさんおおさんとへーきちの会話を聞きながら、ますます“どーしたらいいんだろ―迷路”へはまっていった。

「へーきちさん、私たち人間はどうしたら、美しい山や森を取り戻せるの。」なぎはへーきちに率直に尋ねてみた。

「そーでんな、君達で出来ること家で学校で出来ることしっかり分けて小さい良いことをやっていきなはれ!そーすると案外ハヨウ取り戻せるかもしれませんな、あかん!ぬつかしいこと言い過ぎたわ頭いとーなってきた。」

 二人は少し理解できたような気がした。

「ありがとう、へーきちさん僕たち自分の生活を見直して地球にいいことを実行してみる友達もさそってやってみるよ。」

「やれば案外、へのかっぱさー」
へーきちは
口から空気のあわをぶくぶく吐き出しながら笑った。

「はやて・なぎ!森も静かになったようだ、モリモりがそろそろ気が付く時間だ、行こう。」
はやてとなぎは、へーきちにお礼を言ってかっぱマスクを返して河童握手?水かきが
ついて握手しにくいので手を合わすだけの握手だけど…別れを告げた。

「またおいでよー」
へーきちは大きく手を動かすとアッ!と言う間に深い滝つぼの底に消えていった。

“かなぶりばとう”をトントトトンとたたくビューと空中に飛び上がって…

((はやて)」もう慣れたものだ風を受け一本杉へ急いだ、見えてきたどんどん一本杉がせまってくる、ン!一本杉の様子がおかしい

(凪(なぎ))」トトト!急ブレーキがかかった。

「はやて・なぎ待ってて」

 ロケットダッシュの姿勢をとった“ハッ”

猛然と頭から突っ込む一本杉手前でストップ

空中で一回転して円陣の中へストッ!降りて身構えた?用心しながら廻りはだいばんだの

親分、大飛出とダイバンダでいっぱいだ。

「モリモリ大丈夫?」

「さんおおさんだね?今日はありがとう二人の面倒みてくれて、今みんなに宇宙の成り立ちの話をしてたんだ。」

「さんおおさん面白かったぞ、いっしょに聞けば良かったのに。」
大飛出は威厳を保ちながら言った。

「もりもりは大飛出やダイバンダも味方にしましたね、よかった!はやてとなぎをここに連れて来ます。」
さんおおさんは“かなぶりばとう”をトンと叩いた。

 二人は皆の真上にいた、さんおおさんの合図と同時に箱のないエスカレータみたいに、ヒューとストン、二人は声をそろえて

「じいちゃん大丈夫?あーおもしろかった」

 モリモリは、さんおおさんや大飛出・だいばんだにお礼を言った。

「皆さんありがとう!私たちが住む奇跡の星地球から戦争や自然破壊や環境汚染が一刻も早くなくすのが私達の役目と思っています頑張りますので皆さんも応援お願いします。」

 いつのまにか集まっていた森の動物達も一緒にヤンヤの大喝采となった。

「もし空になれるのなら もし花になれるのなら あれも捨てよう これも捨てよう
短い詩です、でも今を生きる人にとって意義深い心の詩であると思っています。」
もりもりはお気に入りの詩で皆に別れを告げた。

「さんおおさん、今日はありがとう!教えてもらった沢山の良いことを実行してみる!」二人はまたまた声をそろえた。

「森は養分を蓄え川を海を育てる君たちのふるさとだ、森がなくなればふるさとは消える、大地や風を想い、虫や鳥や動物達のこと思い出してね。」

「はい」元気良く返事した、もりもりとはやてとなぎは自転車に飛び乗った。

(颯(はやて)」声をそろえる二人に風があつまりだした。



おしまい。



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